シャッターを切るということ

私は弟子入りした事がないので「師匠」と呼ぶ人はいない。しかし、一方的に師匠と思っている人が4人いる。いずれもわずか数回、仕事する様を横で見て技術的、精神的に参考にさせてもらった人たちだ。今日はその二人目の「師匠」の話。
その方はもうかなり高齢で、現在は恐らくだがもう自分でピント合わせてシャッターを切る事はできないんじゃないかと思う。しかし、息子さんが継いでおられるのでスタジオ自体は現役で稼働中である。
その昔、その父子と私の三人で仕事する機会が何度もあったのだが、撮影をする父親を息子と私でアシストするというのが常だった。息子も既に技術的には一人前だったが、父の前では決して撮影する事はなかった。それは当時のクライアントは父カメラマンに仕事を依頼しているのであって、息子に対しては全く信頼していない様子だった。しかし端から見ていると、撮影中の父カメラマンはいろんな意味で危なっかしかったのだが、写真の仕上がりに関しては素晴らしい仕事をしていた。
 
当時20代前半の私には、体力的にも余裕のある息子に撮影をさせればいいものを、手を震えさせながらも父に撮影させることが理解できなかった。父は私たちのアシストがあるので失敗はあり得ないものの、体力的に辛そうで見ているこっちがハラハラした。
そんなある日の撮影。高所での撮影でどう考えても父カメラマンには不可能だったので、息子が撮影することになった。事前準備は万全で、いつもと同じような撮影になるはずだった。ところがいざシャッターを切る段になって、息子を見てみると尋常じゃない汗をかき手を震わせ、いつも私と冗談ばかり話す声も震えている。
「自分でシャッターを切るということはここまでの重圧があるのか!」と、この時に驚いた。いつもアシストばかりで気が付かなかったが、同じ現場で同じ作業をしていながら、最終的な決断(シャッター)を下すのは他の誰でもなくカメラマンただ一人なのだと。
そのことに気がついてから、私の撮影はシャッターを少しだけ慎重に押すようになった。
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